インプラント治療と耳鼻咽喉科

インプラント治療は歯科医師が主体となって行う治療です。このことに異論を挟む耳鼻咽喉科医はいないと思います。耳鼻咽喉科医は単に歯科口腔外科医が行うインプラント治療を側面からアシストすることしかできません。

 

しかし、上顎のインプラント治療を進めるにあたっては、歯科口腔外科医と耳鼻咽喉科医とが協力して治療にあたるのがよいのではないかと考えられる症例があります。上顎洞炎の合併症例です。

 

ただ、ほとんどの耳鼻咽喉科医はインプラント治療には関心がありません。インプラント治療を行っている歯科の先生方からのお問い合わせに対して満足のいく対応ができる耳鼻咽喉科医が少ないことは大きな問題であると考えております。

少量マクロライドの長期投与

術前に上顎洞炎が認められた場合、歯科口腔外科領域ではまず抗生物質(マクロライド)の長期投与を試みると聞いています。しかしインプラント治療前には、この治療はお勧めできません。医科のような理由です。

 

 

  1. 上顎洞底粘膜の肥厚の原因が細菌感染であるとは限らないこと
  2. たとえ感染による上顎洞底粘膜の肥厚であったとしても、その原因が歯槽骨内にあることが珍しくないこと(例えば、残存歯の根尖病巣)
  3. 3か月間マクロライドを投与すると、一旦、上顎洞炎は改善するが、その時点で投与を中止すると上顎洞炎は悪化し、その3か月後にはマクロライド非投与群と差がなくなること
  4. マクロライドを投与しても、上顎洞の排泄機能を阻害要因(例えば、Ostiomeatal Complex (OMC)の形体異常)は改善しないこと
  5. 長期にわたるマクロライドの投与によって耐性菌が増殖する可能性があること

上顎洞内の貯留嚢胞

歯科の先生方は「粘液貯留嚢胞」とお呼びになることが多いようです。しかしこの嚢胞のなかには漿液性の液体が貯留していることが多く、むしろ「漿液貯留嚢胞」と呼ぶのが適切かもしれません。アレルギー性鼻炎を持つ患者さんに多く認められます。

 

嚢胞自体はサイナスリフトや上顎のインプラント治療を行ううえで支障になるものではありません。しかし嚢胞が大きい場合にはサイナスリフトを行う際に嚢胞が破砕するばかりでなく上顎洞底粘膜が裂開することもあるようです。

 

サイナスリフト中に洞底粘膜が大きく裂開した場合には、一旦、閉創し、後日改めてサイナスリフトを行うのがいいかもしれません。

 

残存歯の根尖病巣

インプラント治療後の上顎洞炎の原因として最も頻度が高いのは、残存歯の根尖病巣である。特に、残存歯に根尖病巣があるにもかかわらずサイナスリフトを行うと、術後、感染を引き起こしやすい。ある歯科医師にこのことを話すと、残存歯の根尖病巣をそのままにしてインプラント治療を行ってもかまわないと考えている歯科医師はいないと言われた。

 

しかし、実際には、残存歯の歯根病巣がサイナスリフト後の上顎洞炎の原因であったのではなかったかと考えられる症例は少なくない。学会の認定医や専門医、更には指導医といわれている歯科医師が行ったインプラント症例のなかにもこのようなものが認められることがある。


上顎洞底粘膜の肥厚

正常な上顎洞粘膜は極めて薄いため、CTで確認することができません。上顎洞内の粘膜をCTで同定できる場合には、粘膜肥厚があると考えねばなりません。しかし、粘膜肥厚があっても必ずしもインプラント治療の禁忌とはいえません。上述した貯留嚢胞があってもCTでは粘膜肥厚と見えることがありますが、上顎洞底挙上術(サイナスリフトやソケットリフト)を行っても差し支えありません。しかし感染による上顎洞粘膜の肥厚がある場合にはインプラント治療を控える必要があります。

歯性上顎洞炎

インプラント治療によって生じる上顎洞炎も一種の歯性上顎洞炎であるといえます。上顎洞底の骨補填剤材充填腔に感染が限局している場合には歯科医師が対応可能です。しかし上顎洞内に膿汁が充満した場合には耳鼻咽喉科医と連携して治療を進める必要があります。上顎洞内に膿汁が貯留している症例では上顎洞自然孔が閉鎖していると考えなければなりません。口腔内から上顎洞を洗浄することによって上顎洞内の炎症が改善し、上顎洞自然孔が再開通することもありますが、上顎洞内に膿汁が充満ていることが判明しましたら、直ちに耳鼻咽喉科への対診が必要となります。